■ノーベル賞が出そろった。今年はノーベル文学賞は日本の村上春樹氏かも、と一瞬どきどきしたが、残念でした。実は私は個人的に、もうひとつ、どきどきしながら見守った賞がある。ノーベル平和賞。191人の候補者中に、ウイグル人権擁護活動家の亡命ウイグル人女性、ラビア・カーディルさんがノミネートされていたのだ。結局、選ばれたのはバングラディシュの銀行家、ムハマド・ユヌス氏。日本も中国もとれませんでした、ということで、今日は中国とノーベル賞の話題をとりあげたい。
■学問・文化の発展は精神の自由があってこそ
中国にノーベル賞が取れないわけ
■ラビアさんノミネートについては、産経紙面でも紹介した。ネットには転載されなかったので、ここでもう一度、紹介。
■ラビアさんは58歳、新疆ウイグル自治区がまだ「東トルキスタン」と呼ばれていたころ、アルタイの中流家庭に生を受けた。共産党軍の侵攻後、貧困を抜け出るために金持ちに嫁いだものの文革の嵐に翻弄され離婚。その後、洗濯屋として一から出直して、持ち前の商才で、中国十大富豪にまでのし上がり、ついには国の政策提言機関、中国人民政治協商会議(政協)委員(93~97年)も務めるほどに出世。
■70年代後半、ウイグル民族活動家として知られるシデッィク・ハジ氏との再婚により、ウイグル人権擁護活動に本格的に従事。96年、97年の政協会議の席上でウイグル人の権利擁護の演説をしたことで、政治的地位と財産を剥奪(はくだつ)され99年に拘束。2000年には地元紙記事を米国にいた夫に送付したことで「国家機密漏洩漏罪」と断罪され懲役8年の判決を受けた。国際社会では「良心の囚人」とよばれ、獄中でノルウェーの権威あるラフト人権賞を受賞。05年に釈放されたあとは米国に政治亡命が認められ、今ワシントンDCに暮らす。彼女の半生については、雑誌「諸君!」5月号掲載の水谷尚子・中央大学非常勤講師による本人のインタビューが非常に詳しいので、図書館などで見かけたら読んでほしい。
■そのラビアさんが今年のノーベル平和賞候補191人のひとりに含まれていることが9月11日、米国の短波ラジオ放送局、ボイス・オブ・アメリカなどの報道で明らかになった。05年に続くノミネートだ。今回は一層有力視されており、中国側も相当焦ったようで、9月12日には中国外務省の秦剛報道官が定例会見の席で「ラビアは国外のウイグル独立勢力のテロリストとつながっている。民主、人権の旗を振りかざし、事実を歪曲、悪意をもって中国政府を攻撃し、反中華分裂活動に頻繁に従事している」と激しく非難している。
■このほか、中国国際時事紙の環球時報が「今年のノーベル平和賞はブッシュもサダムも候補に入っている。近年、ノーベル平和賞は西側諸国の政治的道具に利用され、大衆の批判を浴びている」(9月16日付)といったノーベル平和賞の〝権威落とし〟をしたり、張業遂外務次官が9月21日、北京を訪問していたノルウェー議会外交政策代表団に「ラビアがノーベル平和賞を受賞すれば中国とノルウェーの外交関係にダメージが与えられる」と圧力をかけた(オスロ本社の通信社ABN報道)り妨害に必死だったようだ。ノルウェー側からは「全く受け入れられない。ノーベル賞選考委は完全に政府から独立している」と一蹴されたが。
■今回、ラビアさんが選ばれなかったのは中国の妨害工作の成果、とは思わない。賞の受賞なんてミズモノなのだから。でも、本当にこの人にとってほしかった。彼女が受賞すれば、ウイグル問題について世界の認識が変わるだろうし、ウイグル独立派の象徴的存在としてたびたび命を狙われてきたラビアさんや、中国国内で拘束されている彼女の息子たちの身の安全につながるだろう。そして、中国国民自身に、ノーベル賞とは何か、を改めて考えるきっかけになったかもしれない。
■ここで、中国とノーベル賞の相性の悪さについて考察してみたい。ふりかえると、中国人でノーベル賞を受賞したりノミネートされた人って、ほとんどが中国から逃げたり、迫害を受けた経験のある人ばかり。
■例えばノーベル平和賞を1989年に受賞したチベット仏教指導者のダライ・ラマ14世(1989年)。天安門事件(1989年)の民主化運動学生活動家、魏京生氏も1999年など数度ノミネートされていた。確か法輪功指導者の李洪志氏もノミネートされたことがあったのでは。
■これまで中国人のノーベル賞受賞者は一般に2人とされる。1957年のノーベル物理学賞を受賞した楊振寧、李政道の両氏は受賞時、まだ米国籍になっていなかったから。でも実は出身国は「中華民国」で、米国で学び米国で研究成果を出し、そのまま米国人になった人たちである。
■1986年にノーベル化学賞を受賞した李遠哲・台湾中央研究院長は受賞時は米国籍。その後、李登輝さんの頼みにより台湾人になった。高行建氏が初の中国人作家として2000年にノーベル文学賞を受賞した、といわれたが、彼は実は表現の自由をめぐって中国当局の迫害をうけ、フランスに亡命したのでフランス国籍。そう、振り返ってみると、純然たる中国人ノーベル賞受賞者というのはいないのである。世界人口の5分の1以上占める中国人なのに。
■それはなぜか?結論からいえば、自由と民主の欠如が原因だ。どこの国がノーベル賞をたくさん受賞しているかといえば、米国が圧倒的。自由と民主を掲げ、他人の国にも民主を広げようとするお節介なところもあるが、亡命者や移民にはそれなりに寛容な国である。
■今、中国の学問界で深刻な問題のひとつとして指摘されているのは論文の剽窃だ。今年になって清華大学医学院の劉輝・元教授の論文剽窃▽上海同済大学生命科学院の楊傑・元院長の論文剽窃▽上海大学微電子学院陳進・元院長の「漢芯事件」…など、論文や研究成果の剽窃事件が相次いだ。国務院の調査では180人の博士学位者のうち60%が学術刊行物に自分の論文を掲載するために金を払ったことをみとめ、他人の論文や研究成果を借用したことがあるとした者も六割前後いるという。
■なぜ論文の剽窃が蔓延しているか。もちろん、国や大学側からのプレッシャー、成果主義のマイナス効果もあるだろうが、これはどこの国も共通すること。それより中国特有の問題として、コピー、物まね、盗作に対する罪悪感がないこと、その罪悪感のなさは、第三者からの厳しい監視・監督がないことから生まれている。
■独立した第三者の監督機関がないのは、中国が民主主義じゃなく、法治国家でないからだ。民主主義とは、多数が少数の権力者を監視する体制だ。独裁体制とは少数の権力者が多数を支配する体制。だから民主主義のないところに、法治主義は育たないし、公平な競争や切磋琢磨もありえない。権力側の者が正義であり勝者なのが決まり切っているのだから。
■また、学問の自由や言論の自由そのものに厳しい制限がある中国では、他国との学者との自由な交流が少なく、新たな発想が生まれにくい。国民を海外の思想や情報に出来るだけ触れさせず、国家のいいなりに動くように思想統制する愚民化政策下で、独創性や創造性が育つわけもないだろう。
■もし中国が、4000年の文化を誇る我が国に、ノーベル賞なんて必要ない、と開きなおる度胸があるなら、今のままでもいい。しかし国内報道をみるかぎり、ノーベル賞が欲しくて欲しくてたまらないご様子。ノーベル賞とれないと一人前の国家と認められないと、内心思っているのではないか。なら、やはり今の独裁体制は見直すべきではないか。
■私は確実に中国がノーベル賞を受賞できる方法を知っている。胡錦濤国家主席がノーベル平和賞を狙えばいいのだ。どうすればいいかは、ソ連最後の大統領がよいお手本だ。ラビアさんがノーベル平和賞を逃したのは惜しいが、いつか胡錦濤君がとってくれるなら、きっとラビアさんも大喜びだろう。


by s05694
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