■少し前、人民ネットの言論サイト「強国論壇」で、私の書いた段ボール肉まん捏造報道に関する記事について、意見がかきこまれていた。以下引用。
■「福島香織記者は(中国)インターネットの掲示板のネットユーザーの書き込みも利用して続報を書いているが、彼女は内心、この捏造報道が本当であってほしかったようだ。かりに、段ボール肉まんが事実でなくて、新聞の捏造にすぎなかったら、それはたいそう残念だからだ。彼女は、はなっから中国人のモラルがものすごく低いと決めつけ、米国の食品監督当局の統計で、ドミニカやオランダからの輸入食品の合格率が、中国よりもずっとひくいことなども顧みない。彼女の中国を攻撃し続けるという望みは、中国を真っ黒に塗りつぶすという彼女の働いている新聞社の宗旨に一致し、彼女の政治的信仰に一致しているのだ。
だから、私はここで、福島香織記者にいいたい。日本だってかつて、ニセ食品問題が発生したことがあるし、今も発生している。明治乳業事件、ミートホープの牛肉偽装事件、輸入牛肉の国産偽装事件…。食品の品質保証期間のごまかしなど、枚挙にいとまがない。そういや、旧石器捏造事件というのもあったね。あれは世界の笑いものだったね。福島記者はぜんぶそんな記憶、雲散霧消かい?
産経新聞の福島香織は堅い信念の持ち主であり、彼女は、日本人の中国のイメージを変えるくらいの原稿をかいている。(それはほめすぎですって!by福島)。その逆に、米国の保守派大新聞は、要点をついた報道を行っている。私はあなたに注意を促したい。中国は米国の不合格輸入食品を全部回収するなどきちんと対処しているし、日本の食品にも同様に対処している。製造過程で生まれる落ち度、ニセモノに対しては、中国であれ、日本であれ譴責すべきだろう。特に、自らを文明古国、文明大国と偽りのイメージを作ろうという行いにたいしては、厳しく譴責をすべきである」(引用終わり)
■米国在住の中国人ユーザーの書き込みのようだが、拙稿をこんなに熱心に読んで頂いて光栄です。ちょっと、誤解があるようなので、反論すると、福島は、別に段ボール肉まんが真実であってほしいとは思っていないし、日本でおきた数々の食品安全問題もちゃんと覚えている。いや、日本で起こっている食品安全の偽装事件は、日本人として本当に情けない。日本人ってこんないい加減な国民だったのか?と。ただ、北京駐在特派員なので、中国の情報を発信するのが仕事なのだ。もし、日本で社会部記者などしていたら、きっと日本の食品問題をおもいっきし書いていただろう。
■別に中国人のイメージをおとしめようという意図もない。あおったつもりもない。中国国内の食品安全問題を、それなりに客観的にまとめたつもりだ。中国国内の食品安全状況は、前より改善したとはいえ、やはりかなり深刻だ。中国の食の安全問題は、世界の食糧問題とリンクしている、という危機感から、ちょっとこってり書きすぎたきらいはあるけれど。
■というわけで、最終回の今回は、バランスをとるため?
中国の安全な食品についてまとめたい、と思う。中国にも安全な食品、ありますよ~。(あるのか!?)
■中国にも安全な食品はいっぱいある!
金さえ出せばね。
緑色、無公害、有機食品マークは今ひとつ信用薄いが…。
■最近、北京で食材を買うとき、ちょっと足をのばして「楽活城」までいく。「楽活城」とは、英語名で「ロハオシティ」。北京のセレブ、ホワイトカラーの間ではやりはじめている「ロハス(中国語で楽活)」な暮らしを提唱するスーパーで、おいてある商品は基本的にオーガニック食品。野菜・穀物・茶類はもちろん、豚肉もオーガニック飼料だけを食べさせた豚を農家に飼育させている。欧米からの輸入加工食品も充実している。
■豪華別荘が建ち並ぶ郊外の朝陽区京順路にある本店は、客の数は多くないが、その少ない客は、セレブカジュアル系のファッションに身をつつみ、たいてい「赤い毛沢東」の札を数枚、何の躊躇もなく差し出して、エビアンやオーガニック・コーンフレークや玄米、輸入ドライフルーツなどを買ってゆくマダムや紳士だ。
■先日、このスーパーの総経理助理、サイモン・チェン氏の話を聞く機会があった。彼によれば、このスーパーは昨年暮れに北京の京順路の本店がオープン、北京市に3店舗、上海に1店舗、まもなく広州店がオープンするそうだ。コンセプトはその名のとおり、ロハス=Lifestyles
■売り上げや資本金の額は秘密だそうだが、どうやら儲けてはいないらしい。儲けよりも、消費者教育、たとえば環境を大切にしようというとか、食の安全を考えようとか、を重視しているのだという。「消費者が成長すれば、私たちのスーパーも利益を出すようになる」そうだ。
■このスーパーのアイデアを生み立ち上げた会長は台湾系米国人。社員も米国帰りとか、英語ぺらぺらの人が多く、出資企業も外資系が多い。日本企業も含まれているという。きけば、会長は病気をわずらっており、その療養目的に、北京郊外(密雲県)の森林地域に「之万農荘」と名付ける農村リゾート地をつくった。ここで、会長の健康のために作られた有機農法の野菜や果物を、せっかくだから販売しよう、という発想から「楽活城」が生まれたという。
■実際に店内で販売されているのは「之万農荘」産のものだけではないが、いずれも、楽活城が直接契約している農家が有機農法で栽培したもので、独自の品質検査で安全を確かめているという。契約農家が、嘘をついて農薬などを使ったらどうするの?と聞くと「農民が農薬や化学肥料を使うのは、虫食いのないきれいな作物の方が売れるから。農薬、化学肥料さえ、つかわなければ、収穫されたものは、必ず契約通りの値段で買い取ると約束されているなら、あえて金のかかる農薬や肥料はつかいませんよ」とチェン氏。
■ただ、こういう契約農家の方式は、検査費や不作などのリスクをスーパー側が背負うので、値段はそれなりに高い。ものによって違うが、通常の2~6倍の価格はするだろうか。日本人駐在員からすればたいしたことのない値段だが、月収1万元くらいのいわゆるホワイトカラーの知人とこの店にいったとき、「ここで買うのって勇気いるよね~。ちょっと買っただけで数百元つかっちゃうから、どきどきするよね~。毎日はこれないよね~」と顔を引きつらせていた。
■楽活城のほかにも、北京市内では「太平洋百貨」「新光天地」などの台湾資本の百貨店やウォルマートなど外資系スーパーでも、「有機」「緑色」など政府が「安全」と認証したシールが貼られている野菜・食品が充実している。ちなみ、太平洋百貨、新光天地は、北京で最も高価な食材がうられているといっていいだろう。楽活城の有機野菜・食品よりもさらに値段が高い。
■これはなぜか、というと、もちろん外国人駐在員奥様方をターゲットにした値段設定、ということもあるだろうが、楽活城の説明によれば、政府認証の「有機」「緑色」は認証取得料がかなり高く、その料金が商品の値段に跳ね返っているからだという。ちなみに楽活城は、独自で有機野菜を栽培していて、政府認証の「有機」「緑色」「無公害」シールには、あえてこだわっていない。
■ここで中国の農産物・食品安全認証制度について、改めて整理しておこう。中国には全国共通の「緑色食品」「無公害食品」「有機食品」認証制度がある。この3食品の区別を簡単にいうと、
①「緑色食品」 中国農業省中国緑色食品発展センターが認証する食品安全基準。国際基準並のJASに相当するAAクラス(化学肥料、農薬は一切つかっていない、有機食品とほぼ同義) とAクラス(化学肥料、農薬の使用に制限を設け、残留農薬が基準以下)の2基準にわけて、「緑色シール」が張られる。1992年、中国国内で最初に導入された食品安全基準。認証は有料で3年間有効
②「無公害食品」 省、自治区、直轄市農業当局が認証する食品安全基準。
(残留農薬が基準値以下)。2001年にスタートされた「無公害食品行動計画」(基本的な食品安全確保を目的とした行動計画)に従って導入され、緑色食品よりも、生産地の環境基準がゆるい。緑色野菜が高級百貨店、高級ホテル・レストラン向きなら、無公害は都市部中産階級の食卓向き。認証は無料。
③「有機食品」 国家環境保護総局有機食品発展センターが認証する食品安全基準。(農薬、化学肥料を一切使っていない)。輸入向け農産物の安全を確保するために、2003年に導入された中国初の有機食品認証制度。一応、国際有機農業運動連盟(IFOAM)もからも認められている。認証は有料。
■2007年8月に発表された中国「食の安全白書」によれば、輸出用農作物の90%はこの「有機」「緑色」「無公害」認証をうけている。もっか無公害
農産品は28600種、無公害農産品産地に認定された生産基地は24600カ所、面積にして2107万㌶。緑色食品表示の認証がつけられているのは14339食品、総量にして7200万トン、緑色食品生産基地に認証されている生産基地の面積は1000万㌶。有機食品認証を使用している企業は600社、2647産品(1956万トン)に相当。有機栽培認証を得ている生産基地面積は311万㌶。
■いちおう、覚え書き程度に数字を並べてみたが、中国全土の耕地面積はだいたい18億ムー(1ムー=6・67㌃だから1・1億㌶)。うち無公害、緑色、有機作物が収穫できる土地は計3400万㌶、つまり耕地全体の3分の1弱を占めるわけだから、まあまあがんばっていると、評価できるかもしれない。ちなみに耕地の10%は、化学肥料・農薬・工場排水汚染がひどく、まともな農産物が収穫できないといわれている。
■ただし、この「有機」「緑色」「無公害」が、中国国内の一般消費者にどれだけ受け入れられ、評価され、あるいは信用されているかというと、ちょっと疑問の部分もある。
■まず、価格面。たとえば有機食品や緑色食品は煩雑な検査費用が市場価格に跳ね返っているので、一般の農産物・食品の5~6倍の値段がついており、中国の都市部の比較的裕福な消費者でも、毎日食べることができるものではない。また認証料は、作物によってかなり違うので具体的数字を出せないが、年間数万元レベルの金がかかり、ふつうの農民が払える額ではない。認証を得ているのは、主に都市郊外型の農業食品加工企業や、貿易商などに認証料などを払ってもらえる、輸出用農作物を委託栽培する生産基地くらいだ。つまり、これら認証付き農作物・食品は、特別な農家が特別金持ちな人たちのために作っている。
■また、ニセモノが横行する中国市場において、緑色マーク、有機マーク、無公害マークなど、いくらでも偽造できるから、いまひとつ、消費者としては信用できない。
■よい例が、2007年8月16日、山東省青島市郊外であった事件。レストランで女性客が煮卵を注文したら、それがニセ卵(人工鶏卵)で、殻の中から「緑色食品認証マーク」が出てきた。ホテル側は、その卵を町の市場で緑色食品認証卵、つまり政府が品質保証する安全な卵として、高い値段で買ったという。殻の中から「緑色マーク」が出てきた、ということは、このニセ卵をつくる製造過程で、殻の表に張るはずだったマークを間違って殻の中に入れてしまった可能性が考えられる。ひょっとしたら、まんまとだまされた消費者をからかうつもりで、わざとマークを殻の中に仕込んだのかもしれない。いずれにしろ、「緑色マーク」なんてこんな程度のものである、ということを思い知らされた。
■さらにいえば、汚職が政治文化としてはびこる中国で、お上から与えられる認証ほど、あやしいものはない、と考える人も少なくない。無公害食品など、地方政府レベルの認証は、賄賂や人間関係でお目こぼしもあるらしい。
無公害・緑色の認証を受けたにもかかわらず、実は農薬使っていました、という事件は、ときどき思い出したように報道されているので、スーパーによっては、「無公害マーク」がついていても、消費者が希望すれば残留農薬テストをやってくれたりする。わざわざ認証マークが付いているのに、検査を求められるなんて、どれだけ権威のない認証マークか。
■農産物・食品ではないが、全国歯科疾病予防組合が発行する「組合認証マーク」は、実は何の検査、審査もせずに、賄賂を受け取って発行されたものであったことが今年発覚、この事件がもとで組合は5月に解散させられてしまった。このとき、中国の権威機構、組織による「認証」への信頼性の低さについて中国メディアも、さかんに指摘していた。中国にも安全な農産品・食品は製造されている。だが、結局その安全には高い代金と、ニセモノかもしれないというリスクがついている、わけだ。
■さて、このブログで、中国の食の安全の概要をひととおり紹介してきたが、今後、この状況は改善されるのだろうか。個人的な感想をいえば、2003年以降、中国の食の安全は、劇的に改善されてきていると思う。もちろん、今も食の安全に問題は多いが、以前はもっともっとひどかった。
■今、中国の食の安全問題が急にクローズアップされているのは、これまで中国の食の安全に対し無頓着だった米国が、急に騒ぎ出したことがおおきい。これは米国が中国の食の問題を、外交カードと国内政治カードに利用しうよとしているからだろうが、五輪前というタイミングもあり、中国としては、いつものように、「いいがかり」「報道のあおりすぎ」と突っぱねてばかりではいられなくなったのだ。せめて北京だけでも、国際社会からけちをつけられないようなレベルに到達せねばメンツが保てない。だからあわてて食品リコール制度などを導入し、年内にローラー作戦で、安全に問題のある食品の徹底取り締まりを実施するというのだ。この努力は、一応の結果を出すことになろうだろう(五輪おわったらゆるむかもしれないが)。
■だが、中国で、ニセ食品、悪質食品、残留農薬農産物の問題が完全になくなるとは思えない。なぜなら、国民の半分ぐらいは今後も、安全な食品より、安価な食品を求めているからだ。中国には、ロハス・スーパーで高価な有機野菜を買うセレブもいるが、残留農薬なんて洗えばとれるのだから安い野菜でいいではないか、と思う消費者もいる。通常の米の20倍の価格の日本直送「ひとめぼれ」を買い占める大金持ちもいれば、発ガン性カビ毒・アフラトキシンに汚染された「民工米」でいいから、腹いっぱい食べたいと思う出稼ぎ者もいる。中国の食品安全の問題は、やはり格差の問題にかえってくる。
■そして、中国の格差は開く傾向にある、としたら、むしろ食の安全問題は、ますます突出してくるかもしれない。全体としては、食品の安全性、合格率が増えても、そのぶん、貧困層の食卓に問題食品が集中し、貧困層の状況は一層悪化するのではないだろうか。
■さらにいえば、その安全でない食品を食べざるを得ない貧困層が、金持ちや外国の消費者のために、自らの口には入らない安全な食の生産を求められる農民である可能性が高いのである。そうなったとしたら、それは人道的にも大いに問題があるのでは?
■人の命は、天のもとでは、平等だろう。その命をつなぐ食の安全も平等であってほしい。ま、そこまで理想をもとめなくとも、中国にとって最大食品輸出国の日本としては、自らの食の安全を確保するためにも、中国の食の安全問題に関心を払い、農村問題解決や格差緩和に貢献できる形での経済・技術協力を考える必要があるのではないか、と改めて思う次第である。


by nihonhanihon
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