■ずいぶん前だが、産経新聞の外信面で、「野菜も洗える洗濯機」(2002年9月5日付)というコラムを書いたことがある。中国産残留農薬冷凍ほうれん草問題が表面化した2002年夏、山東省青島市の大手家電メーカー、ハイアールを取材した際、新開発製品の「野菜も洗える洗濯機」を紹介された。そのとき、なるほど、中国の野菜は、洗濯機で洗わねばならないほど農薬まみれなのか、洗濯機で野菜を洗う発想、日本人にはないよなあ、と妙に感心したものである。蛇足かもしれないが、当時のコラムを再録しておく。
■「野菜も洗える洗濯機」
中国野菜の残留農薬が日本で大問題になっているけれど、では中国人は農薬野菜を毎日食べても平気なのか?
そりゃあ同じ人間、平気なわけはない。しょっちゅう農薬中毒も発生している。だから中国では非常によく野菜を洗う。水道の流水で30分洗うなんて普通。ゆでるときは塩をいれず、湯は必ず捨てる。塩を入れると、毒素と塩分が一緒に野菜に再付着するらしい。
少し前、中国最大手の家電メーカー、ハイアール社の見学にいったとき、〝野菜もあらえる洗濯機〟が展示されていた。「ハイアールは消費者のニーズに応じて、新しいアイデアをどんどん商品化しているんですよ」と、広報担当者が自慢していたが、中国人はそこまで野菜洗いに腐心しているのである。
ハイアールは三洋電機と提携して日本市場にも進出中だが、この洗濯機も日本で売り出されるかも。そうすれば農薬問題も解決、洗濯機も野菜も売れて、中国政府の思うつぼである。
しかし、パンツを洗った洗濯機で洗ったキュウリの浅漬けは果たして、おいしいか?中国人のビジネスアイデアには敬服するが、やっぱり農薬を減らす方に頭を使ってほしい、日本人としては…。(2002年9月5日付)
(再録おわり)
■このコラム執筆時から約5年、野菜も洗える洗濯機は中国国内ではそれなりに売れているみたいだが、三洋電機と組んで日本市場進出を狙ったハイアールは結局撤退。やはり、野菜も洗える洗濯機的ビジネス感覚は、日本人にはついていけなかったということだろうか。ちなみに北京的感覚になれた私は、野菜を洗うのに洗濯機こそ使っていないが、洗剤は使っている。日本から来た友人は、「野菜を洗剤で洗うなんて、信じられない!」と言っていたが、これってこっちでは常識よ。
■いや、何がいいたいか、というと、こちらの人たちにしてみれば、野菜に残留農薬があることは、当たり前のこと、おりこみずみなのだ。少なくとも、夏になると、「野菜の残留農薬濃度が高くなる季節です、気をつけましょう‥」と、堂々と雑誌やネットを通じて専門家から警鐘がならされる。パッチテスト式の残留農薬試薬も売られているし、主婦たちは野菜の正しい洗い方、なんて会話でもりあがるのだ。というわけで、今回は、中国産野菜(国内向け)が、どのくらい残留農薬にまみれているのか、まとめたい。
■国内ではまだまだポピュラー〝毒菜〟
化学肥料による土地汚染も原因
背景にはニセ農薬・肥料の氾濫!
■残留農薬野菜が日本でホットな問題として注目されはじめたのは、2002年から2003年の冷凍ほうれん草残留農薬問題だろう。2001年12月に、中国産輸入野菜から使用禁止の農薬メタミドホスが検出されたことをきっかけに、日本の検疫当局が中国産野菜の監視を強化したところ、つぎつぎと残留農薬問題が発覚。
■特に、このころ「中国国家品質検査検疫総局が全国23都市について中国産野菜のサンプル調査をしたところ47・5%から、安全基準を超える残留農薬が検出された」(2001年12月10日、中国青年報)、「中国では年間10万人が、野菜の残留農薬で中毒症状をおこしている」(2001年12月18日 中国青年報)といった報道も日本で転電され、日本の読者に衝撃が走った。なんたって、日本の輸入野菜は2001年当時、中国産が53%をしめており、食卓に中国野菜が並ばない日はないからだ。
■さらに2002年は、日本のスーパーの店頭においてある冷凍加工食品から基準値を超えるクロルピリホス(食べたら中枢神経を侵す農薬)が検出されたりして、大騒ぎになった。「冷凍ほうれん草」問題と呼ばれたこの問題は、あわや禁輸措置発動というところまでいった。結局輸入自粛措置になったが、日本の措置に、中国はそれでも「保護貿易主義!」と非難ごうごう。残留農薬が検出された冷凍加工食品は枝豆やセロリもあったのに、なぜか冷凍ほうれん草が悪の代名詞になって、日本では冷凍ほうれん草の販売量が社会現象になるほど激減した。
■さて、あのころ、逆ギレしていた中国も、その後ずいぶんと努力したようで、最近は、都市の野菜の半分が〝毒野菜〟という状況は多少改善されたみたいだ。2007年の上半期、野菜の残留農薬合格率は93・6%にたっした、と最近発表された「食の安全白書」で胸を張っている。また、政府が安全だと認定する、「無公害」「緑色」「有機」といった農産品の格付けラベル制度が浸透してきたことで、いちおう、消費者に安全な野菜の目安というものを与えることができている。
■だが、しかし、残留農薬問題が依然、中国の食の安全の主要なテーマであることはかわりない。最近だってこんな状況だ。
■山東省煙台市無公害野菜モニタリングセンターがこのど明らかにしたデータによると、2007年7月末までに全市で廃棄された残留農薬野菜は16トンあまり。7月だけで6トン以上。ニラ、キュウリ、セリ、小白菜などだった。検出された農薬はメタミドホスとメチルパラチオンなどという。
■2007年8月4日付の中国農薬ネットによれば、8月2日に煙台市で残留農薬野菜が市場に流入したことが発覚し、1・4トンの野菜が押収された。これも煙台市無公害野菜モニタリングセンターの発表。残留農薬野菜の筆頭はやはりニラ、キュウリだった。煙台市はじめ山東省は、野菜の産地として質、量ともに全国有数。無公害野菜(低農薬で安全と政府から認定されている野菜)栽培にも力を入れて、日本への輸出量も多い。そういうところでも、やはり残留農薬野菜が市場に出たりするわけだ。
■2007年2月10日、アモイ晩報によれば、昨年廃棄された残留農薬野菜は117トンで、前年よりむしろ増加。有機リン系農薬、メタミドホスなどが検出されたという。一日2トンの野菜が廃棄されることもあったという。
■今年1月、環境保護NGO「グリーンピース」香港支局の発表によれば、市内6地域の市場から野菜・果物10サンプルの抽出調査をおこなったところ、中国産5種からメタミドホス、トリアゾフォスなどの使用用禁止農薬が検出されたという。香港の検疫当局が昨年暮れに、市内に流通している果物、野菜300サンプルについて検査を行い100%合格を宣言をしたばかりだったため、当局の検疫の甘さに批判が集中した。
■おなじく「グリーンピース」が06年4月に発表した調査結果では、香港の野菜市場の3割を供給している百佳、恵康の両スーパーで、売られていた野菜55サンプルの75%にあたる41サンプルから残留農薬が検出されたという。これら野菜は中国国内、香港で生産されたものだった。検出農薬の仲にはDDTやメタミドホス、666などの使用禁止農薬も。複数の農薬が使われて「農薬カクテル」になっている、という野菜もあった。
■2007年2月10日の京華時報によれば、五輪をひかえた北京市では、ハイテクを駆使した野菜の品質管理を昨年9月から導入しているが、このほど小湯山特別野菜栽培基地が管轄している02号基地の温室で栽培されたほうれん草に使われた農薬の残留値が基準を超していたことが判明して、出荷が停止された。
■これは、当局がいかに農産品の品質保証に真剣に取り組んでいるか、ということをアピールする記事だったが、優良農場の代名詞である「特別野菜栽培基地」でも残留農薬野菜はできてしまうことも明らかになった。ちなみにハイテクを駆使した野菜の品質管理とは、農産品が出荷される際にパッケージに生産地情報をそれこそ、どの温室のどの苗、というあたりまでもりこんだICタグを張り、あとで問題が起きたとき、その生産地・生産者を特定でき、責任を負わせるというシステムだ。北京では今年までに40農業企業の120種の野菜について導入されている。
■毒菜は農薬のせいだけではない。農薬より怖いのが化学肥料汚染野菜だ。農薬はよく洗えばなんとかなるが、化学肥料は、野菜の内部に毒が浸透する。化学肥料の過剰使用は、土地を窒素過多にする。そんな土地で育った農作物は硝酸態窒素を多く含むが、これは人体に入ると血中ヘモグロビンと結合し、体内に酸素が行き渡るのを阻害、酸素欠乏症を引き起こすことがある。この硝酸態窒素を多くふくんだ野菜を食べた赤ん坊の顔が、酸素欠乏で紫色になることがある。ブルベビー症と呼ばれる症状だ。家畜が食べれば家畜の健康が損なわれるし、味も苦くてまずい。中国でたまに信じられないくらい苦い大根やほうれん草があるが、これは化学肥料汚染野菜の可能性が高いので、食べずに捨てよう。
■2007年8月22日の光明日報によれば、全国で年間使用されている農薬は毎年140万トン以上、化学肥料は4300万トン以上。中国は世界の耕地の7%を占めているが、化学肥料は世界の35%を使用している。しかも、その効果率というのは、農薬で30%前後、化学肥料で35%という。つまり、本当は現在使用している30%~35%の量の農薬、化学肥料で十分なのだ。必要以上の農薬や化学肥料は土地と農作物を汚染し、人体に悪影響を与えかねないのだ。ちなみに中国で水質汚染、化学肥料による土壌汚染は全耕地の10%にのぼる。
■なぜ、そんなに化学肥料や農薬を多用するのか。実際、地方の農村を取材すれば多くの農民が肥料代と農薬代が経済負担だと訴える。この最大の原因は、目先の利益しかかんがえていない農民の無知だと思う。
■たとえば、メタミドホスなど中国国内で使用が禁止されている農薬は、価格が安い。そして効き目が強い。低残留農薬を使うより、元手が20%安くなるといわれている。虫食いのないきれいな野菜は、高く売れる、ということばかりにとらわれ、目先のお金節約のために、毒菜をつくってしまうことの方が、長い目でみれば生産者としての信用を失い損をする、という発想が、残念ながらない。
■さらにいえば、農民に農薬や化学肥料に対する根本的な知識が欠如している。山東省莱陽市でアサヒビールなど日本企業3社が出資して経営している牧場・農場「朝日緑源」を取材したときの話。この農場の土地は、省政府の仲介で、農村所有の土地を借り、その土地の〝使用権(請負経営権)〟を所有する農民を社員や契約社員として雇って運営されている。ところが、土地を借りた当初は、化学肥料による土壌汚染で農作物を植えられる状況ではなかったという。
■だから、朝日緑源は、まず麦類を土地に植え、余分な窒素を吸い上げさせ、その麦を廃棄するという作業を数回くりかえし、土地の窒素量を調節しなければならなかった。しかし、地元農民はそんな当たり前のことも知らず、せっせと化学肥料を加え続け、この土地で農作物をつくっていたのだった。化学肥料さえ入れれば、農作物がよく育つと思いこんでいる。農薬の使い方一つにしても、どのくらいの量を、どういう方法で、どういうタイミングで使う、という知識が行き渡っておらず、その管理の仕方がきわめて雑な場合が多いという。
■農作物ではないが、中国の牧場では、乳牛に抗生物質を打つとき、ふつうの農民や、ときに農家の子供が獣医からもらった薬をぽんぽん打つという。日本では家畜に薬を投与するのは獣医だ。「量とかまったくいい加減で、投与量は多くなりがち。これじゃあ牛乳の抗生物質汚染が問題になっても仕方がない」と、中国で長年酪農指導をしてきた長野県松本市の酪農家、小沢禎一郎さん(67)から聞いたことがある。
■さらに、農作物の農薬汚染、化学肥料汚染を深刻化させているのは、ニセ農薬、ニセ肥料の多さだ。中国では、使用期限をすぎて成分が変質したり、カドミウムなど不純物や劇物が基準より多くふくまれている農薬・化学肥料が市場にでまわっている。さきほどふれたが、農民にとって農薬、化学肥料代は、大きな負担。だから少しでもやすいものを買おうとする傾向がある。そのため、安かろう悪かろうのニセ農薬・肥料をつかまされてしまうこともあるのだ。このニセ農薬、ニセ肥料は、しばしば農作物全滅などの被害を出し、農民が損害賠償裁判を起こした、といった形で報道されている。最近では国外での被害もでている。
■たとえば、南アフリカで中国から輸入した化学肥料を使ってパイナップルを栽培したら、パイナップルが化学肥料を通じてカドミウムに汚染され、EUへの輸出がストップされてしまった。2007年7月6日付、インディペンデント・オンライン(南アフリカメディア・インディペンデントグループのネットニュースサイト)が報じた。
■実は日本の検疫でも、カドミウム入り混合肥料が水際で食い止められた例が一度ならずある。なんで、化学肥料にカドミウムが混入するのか、素人の私にはよくわからないのだが、中国のカドミウム土地汚染、農作物汚染も、工業排水による水質汚染だけでなく、化学肥料汚染も原因ではないか、との見方がある。
■ニセ農薬・肥料の問題の最近の国内ニュースを拾い上げてみよう。
2007年8月13日北京晩報によると、5・8トンの毒性の強いニセ農薬が12日、北京コンクリート工場で処分された。北京市、農業・工商当局が展開した取り締まり活動で、1287の農薬生産企業から360キロの毒性の強いニセ農薬が押収され、依然に押収された600キロのニセ農薬、4900キロの使用期限を過ぎた劣化農薬とともに、灰にされた。押収されたのはメタミドホスなど5種類の有機リン系農薬で、これをまいた野菜を食べると人体に悪影響がでるという。
■2007年5月31日の安徽市場報によると、合肥市工商当局は、ニセ農薬闇製造所を摘発、2万瓶以上のニセ農薬、家畜用薬を押収した。価格にして5万元に相当する。このニセ農薬は、毒性にしてふつうの農薬の倍にあたるという。
■中国化学肥料ネット(2006年11月7日)によると、中国の化学肥料業界で最近は混合肥料の市場が急拡大しているが、この10年の国産混合肥料製品のサンプリング調査では、全国の平均合格率が70~80%で流通地域(地方の農村など)の合格率は70%以下という。混合肥料製造企業の多くは年産3万トン以下の零細企業で、ニセ肥料を製造したり、、製造技術が劣っていたり、製品の品質に対する化学検査機能が働いていなかったりする。こういった悪質、ニセ肥料が、外国産肥料の袋に入れられて市場にでまわることがある。
■こうしてみてみると、中国の毒菜問題は、単に農民・生産者のモラル、利益主義の問題だけでなく、農民の無知、農業の体質の脆弱さ、肥料・農薬製造業界の体質の問題も関係する複合的な要因がありそうだ。
■だから問題を解決する最大の鍵は、農村経済の立て直しを通じた中国農業の体質強化にほかならない。胡錦涛政権も「新農村建設」とスローガンを掲げているが、なにぶん人口の7、8割が農民という国。スローガンだけでは、遅々として進んでいない。
■ところで、対日輸出用冷凍加工食品製造で知られる山東省莱陽市の農業食品加工企業「竜大集団」や、さきほどもふれた「朝日緑源」など、日本企業の投資がどかんと入り、日本式栽培・管理の技術も導入されている農場は、私の取材したかぎりでは、その生産者である社員・契約社員(農民)の意識や知識、生産品レベルもかなり高いように見受けられる。日本の資本力、技術力、指導力には中国農業をかえていく力があるのだな、と感じた。
■というわけで、日本の食卓が中国に支えられている現状は今後変わることはないだろうし、13億人口をかかえる中国の農産物の安全向上が、世界の食糧問題に直結すると考えれば、米国のようにチャイナ・フリーを叫ぶより、日本としていかに、中国の農産物の安全や品質向上に寄与できるかを考えたほうがいいと、私は思っている。その方法として、ひとつは、検疫強化などを通じて、日本の食品、農産物への安全意識の高さを示し、このままでは中国の農産物はじめ食品の安全レベルは日本には通用しない、と警鐘を鳴らし続けることだろうが、もう一つは、経済利益を見込める形での、日本農業の技術、人材育成など協力のいっそうの促進ではないだろうか。それは長い目でみれば、日本農業にけっして不利なことばかりではないと思うのだが。
■おまけ。中国食品産業ネットが推奨する正しい野菜の洗い方。
①中国の野菜は、残留農薬、化学肥料による硝酸塩、寄生虫卵、土中にある様々な病原菌に汚染されている可能性があります。よく洗いましょう。
②残留農薬に関しては、水道水で10分から60分かけて洗えば15%から60%は除去できます。野菜・果物用洗剤をつかうと効果的です。
③高温で熱を加えることで、農薬成分を分解できます。夏の野菜はできるだけ加熱して食べましょう。よく洗ったあと熱湯で数分ゆでると残留農薬は30%前後まで減らすことができます。さらに高温の油でいためると、90%以上の残留農薬は除去できます。このほか、米のとぎ汁で野菜を洗い、日に干しても、効果があります。
④くだものの場合、皮をむくのも効果的ですが、皮にはビタミンCなどが多く含まれていることがあります。洗剤を垂らした水に10~15分つけて、きれいな水で洗うと、おおむねきれいになります。
写真もいろいろあるのだが、ネットの調子がわるいので後でアップする。


by nihonhanihon
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