■パナマで360人以上の子供の犠牲者を出した、パナマ毒入りせき止めシロップ中毒死事件。その後、どうなったのか。報告がおくれたが、15日の中国外務省の定例会見で、姜瑜報道官はパナマのせき止めシロップ大量中毒死事件について、こう発言した。「中国の関係部門はこの一件について高度に重視しており、もっか、厳格にまじめに調査している。調査結果は、あとで公布する。私は中国側がこの件を法に従って処理すると信じている。具体には、パナマ側から協力者がきて、中国側の調査と協力するかどうかだ。関係部門に直接きいてほしい」
■というわけで、事件の真相はもっか調査中。中国側の調査結果の公式発表をまつことになる。いちおう、最初の「うちら関係ないもん」という態度はまずかったな、との反省が言葉のはしばしににじみ出ている。
■で、先週の南方週末も、けっこうきっちり報道し、国内でも報道解禁になっているようだ。国内報道をもとに、事件の概要をおさらいしてみる。
①2003年7月31日 泰興グリセリン工場が11349㌔のTDグリセリンを、㌧あたり6900元で、国営貿易会社・中服嘉遠貿易公司に販売。ちなみに普通のグリセリンは㌧あたり18000元が相場。
②中服嘉遠はスペインの貿易会社に販売、㌧あたり1600㌦で販売し、スペイン・バルセロナ港へ輸送。この時点で、貨物はTDグリセリン純度99・5%と申告。
③スペインの貿易会社はパナマの製薬企業・メディコムに㌧あたり2000㌦で販売。パナマの税関ではなぜか貨物申告は純グリセリン99・5%に。
④2006年9月、パナマ政府がメディコムに生産委託してた咳止めシロップを配布、360人以上の子供たちが中毒死。
⑤原因物質はどうやら、パナマと国交のない中国からきたらしい、というので、パナマは米FDAに調査協力を依頼、06年10月、米FDAは中国に事情を説明、中国の食品医薬監督管理局と合同で現地調査、その結果、中国側に責任無し、と判断したので、米国も中国もパナマも、そのまま事件の真相をうやむやに。
⑥で、中国が忘れた頃に、米NYT紙に、中毒原因物質は中国産原料に含まれていた!と突然報道されて、とっさに「うちら関係ないもん」と、反応してしまった、というわけだ。
■しかし、本当に関係ないのか。今後同様の悲劇を防ごうと心から思っているならば、中国にだって改善すべき点がかなりあるのではないか。
で、この事件の責任はどこにあるか、というのを、外野席から、ちょっと整理してみた。
①原料の成分もたしかめずに(あるいは純グリセリンでないと知った上で?)、せき止めシロップをつくったパナマの製薬企業の責任(そもそも2003年製造の古い商品原料につかうなよ)。
②製薬企業が作った咳止めシロップの品質を化学検査せずに(あるいは品質がよくないと知ったうえで?)市場に出し、市民に無料配布したパナマ保健当局の責任。
③グリセリンと申告された、ニセ・グリセリン(TDグリセリン)をそのまんま鵜呑みにして(あるいは知った上で)税関をスルーした、パナマ検査検疫当局の責任。
④貨物の品目「TDグリセリン」のTDを製造過程の説明かなんかの記号だろう(本当は中国語の代替品、という意味の略語)、と勝手に解釈して、(あるいはニセモノでも関係ないやと思って?)、成分分析表のないまま、パナマに輸出したスペイン検疫当局の責任。
⑤中国産のやたら安いTDグリセリンを、製薬企業が医薬品原料として使うと予想できたのに、そのまま売ったスペインの化学品・薬品貿易会社の責任。
⑥中味はソルビントールとかジエチレン・グリコールの混ぜものなのに、「TDグリセリン」純度99・5%以上、などとふざけた商品名をつけ、成分は企業秘密など、と公開もしていない泰興市グリセリン工場の責任、あるいは成分表の英訳をちゃんとつけたのか、あるいはつけていないのか、はっきりしない輸出代理店の中国貿易会社の責任。
⑦中味はジエチレン・グリコールやソルビントールの混ぜものなのに、「TDグリセリン」というふざけた商品名での製造、販売を認可した地元工商当局。グリセリンのニセモノを原料としたニセ薬による被害が、国内外で発生しているのを知っておりながら、そういう紛らわしい商品名を問題視しなかった、地元医薬管理監督当局の責任。
⑧昨年10月に米国から連絡を受け、それなりに調査をして、中毒の原因物質が、中国産のTDグリセリンであるとわかっていたのに、中国の関与をまったく発表せず、問題点を検証せず防止策も講じようとしない、意識の低い中国政府の責任。
⑨昨年5月にチチハル第2製薬ニセ注射薬事件、という、ニセ・プロピレングリコール(実はジ・エチレングリコール)入り注射薬による病院における中毒死事件という重大事件がおき、グリセリン工場など化学原料工場が集中する泰興市あたりに、ニセ薬・医薬品原料ブローカーが暗躍している実態をしりながら、有効な対策を打てていない中国食品医薬監督管理局の責任。
■事件は、故意かうっかりか、TDグリセリン(ニセ・グリセリン)を純グリセリンと取り違えたことが直接的原因だ。誰がどこまで悪意にみちて、どこまでうっかりもので、どこまで怠慢だったのかは、わからない。責任の所在は上記のように多くに分散している。でも、どこかがまともに機能していたら、あんなにたくさんの子供たちが苦しんでしぬこともなかったかもしれない。最大の責任の所在はパナマの製薬会社とパナマ保健当局にあるとしても、私は北京在住記者なのであえて、中国側の問題点を考えてみたい。
■「TDグリセリン」って何よ!?
やっぱりペテンの一種でしょ
中国でニセ薬が蔓延するわけ
■1998年、上海留学当時、風邪をひいたので、中国の売薬を飲んだ。米国の有名メーカーとの合弁の製造の薬で、私でも名前のきいたことのある薬だ。それを飲んで、数十秒後、いきなり気分がわるくなった。毛穴が一斉に開き、油汗がどーっと流れる感じ。心臓がエイリアンよろしく胸を突き破って飛び出そうな勢いで脈拍が急上昇し、く、くるしい、死ぬ~と思った瞬間、口からさっきのんだ水と一緒に薬を勢いよく吐いてしまうと、うそのように発作がおさまった。
■よく、土曜サスペンス劇場などで、毒薬を飲まされたシーンで、役者さんが苦しむ演技をするが、なんというか、あのまんまであった。人生で、2,3度あった、本当に死ぬかもしれない、と思った瞬間のひとつである。
■あとで、医者(日本人)にたずねると、「中国人は、抗生物質汚染の食品を小さい頃から食べているから、体質的に薬があまり効かない(忍者みたいだな!)。だから、中国で売っている売薬の成分はそうとうキツイんですよ」などと説明されたが、本当に成分がきつかっただけだろうか?あれは、ニセ薬ではないか、と今頃になって疑っている。おなかが痛いとか、ちょっと吐き気がする、というようなものではなかったのだから。
■すぐに、ニセ薬を疑ってしまうのは、それだけニセ薬が中国で多いからだ。薬局にもニセ薬はまじっているし、病院だって、ニセ薬をつかってしまうことがある。ここで言うニセ薬とは、
①有名メーカーの薬の名前、パッケージを似せた海賊版薬。中小化学工場が勝手に、みようみまねで作り、とっても危険。地方都市や農村のさびれた薬局にさりげなくおいてあったりするので、地方の小さな薬局で薬を買わない方がいい、と言われたことがある。
②生産工程がずさんだったり、有効期限が切れたり、保存管理の仕方が間違っていた薬。最近では安徽華源生物薬業の欣弗(クリダマイシンリン酸エステルブドウ糖注射液)による不良反応事件(2006年6月ごろ)がこのケース。滅菌工程がずさんで滅菌が完全で無かった上、工程や保存の温度が規定より高く、菌が繁殖していたらしい。こういうずさん製造、保存薬は農村の薬局や病院で平気で使われたりしているらしいので、地方で病気になったときは注意。
③れっきとした製薬メーカーが作っているのだが、製造過程でニセ原料をつかったり、エイズウイルスや肝炎ウイルス、その雑菌などに汚染された原料をつかった薬。信用があるぶん、大都市の大病院で使われたりするので、大騒ぎになる。
■パナマで発生したニセ咳止めシロップは、③に分類される。ニセ・グリセリンことTDグリセリン(その実、ジエチレングリーコール&ソルビントールなどが主成分)を原料にし、パナマ当局の委託をうけた製薬会社がシロップを製造している。この③タイプのニセ薬事件で、死者が出た大型ニセ薬事件で記憶に新しいのは、チチハル第二製ニセ注射液。この事件は日本の新聞でも報道されたが、お忘れの方もあると思うので、もういちど紹介する。
■2006年4月、広東省のある病院に入院中の肝炎患者2人が急性腎不全で相次いで死亡した。さらに同様の症例の患者があいつぎ、腎臓、肝臓専門家らが召集され緊急調査を行ったところ、同病院で使用していた国有チチハル第2製薬製造(黒竜江省)のアドミラルシン注射薬が原因だと特定された。アドミラルシンとは、蛋白代謝改善や消炎などを目的に投与される医薬品。
■これをうけて中国国務院は5月12日、全国で、チチハル第2製薬製造のアドミラルシン注射液の販売、使用の停止を命令した。ニセ薬事件は中国で頻繁におきているが、国有製薬企業が製造した「国薬」がニセ薬、しかも最終的に死者は少なくとも広東省を中心に13人以上にのぼる大事件であり、中国でも衝撃は大きかった。
■チチハル第2製薬がなぜニセ注射薬を製造したのか。その後、中国メディアがあきらかにしは内幕は、人の命を預かる製薬の現場にあるまじき、悪意と、いいかげんさと、監督不行届があった。
■ニセ注射液は、本来なら溶媒としてプロピレングリコールが使われるはずだったが、実際にはジエチレン・グリコールが混入されていた。このジエチレン・グリコールを製造したのは中国地鉱総公司傘下の泰興市化学工場(江蘇省)、それを産品として販売したのは常州華各爾有限公司、納入書類を発行したのは江蘇美奇細精化工有限公司。この3企業が一緒になって、ジエチレングリコールをプロピレングリコールにしたてあげ、その容器に合格証まで張られていた。
■薬品納入に必要な薬品製造許可証、薬品登記証、企業登記証は全部偽造だった。この偽造に関わった、泰興市のニセ薬原料ブローカー・王桂平はすでに逮捕ずみ。
■このニセ・プロピレングリコール(実はジエチレン・グリコール)を、チチハル第2製薬の原料購買部員、鈕忠仁1人が買い付けた。この製薬会社は原料の買い付けは2人一組で行うことが決められ、買った原料は成分検査されることが、義務づけられていたが、このルールは無視されていた。CCTVの「焦点談訪」によれば、チチハル第2製薬には原材料の成分や純度を精密に測る化学検査機器があったが、化学検査班は、中学生レベルの化学の試験で採用されたあと、研修もうけておらず、これら機器のデータを分析する能力がなかったため、これら検査機器は使われたことがないという。はぁあ?と耳を疑う話しである。
■けっきょく、この事件は王桂平、鈕忠仁ら11人が刑事責任を問われ、うち王ら5人が今、民事責任で1000万元以上の賠償金請求裁判を犠牲者、被害者家族から起こされている。
■チチハル第2製薬が、こういったずさんな方法でつくったニセ薬は少なくとも5種、それをすでに8省に二百数十万個販売済みだった。中国の病院の現状を考えると、ニセ薬による確認されていない死者はもっと多いのではないだろうか。
■ニューヨークタイムズ紙はこの王桂平と、今回のパナマの事件が関連あるような報道の仕方だったが、この点については、私はわからない。確認のとりようもない。ただ、中国では、こんな風に、ジエチレン・グリコールがプロピレングリコールやグリセリンなど名前がよく似た医薬品原料と偽られて売買される土壌があった。
■さて、パナマの事件の原因となったニセグリセリン「TDグリセリン」。この商品は泰興市グリセリン工場が、グリセリンの代用品として、売っていた商品である。工業原料として製造認可をとっており、化粧品、歯磨き粉などに使える、と自社ホームページで宣伝している。成分については、公表されていない。
■ホームページでは、優良企業のような宣伝がいっぱいかいてあるが、
「純度99・5%以上、TDグリセリン」。私はこの表記だけで、ペテンくさい、と思ってしまう。TDグリセリンとは「替代(ティダイ)」グリセリンの略だが、その実、ソルビントール、ジエチレングリコールなどが混ざったものだった。それなら、きちんとソルビントール何%、ジエチレン・グリコール何%って書くのが当然だろう。TDグリセリンなんて書けば、成分はグリセリンと同じなんだ、と間違う人が絶対でてくる。日本じゃ、お菓子の箱の中に入っているシリカゲルにすら、「食べられません」ときちんと書かなきゃ、それによる誤食事故がおきたらメーカー側の責任が問われかねないのだぞ。
■実際、泰興市グリセリン工場製造のTDグリセリンは、1994年、上海の貿易会社との間でグリセリンの名前で取り引きされ、トラブルを起こしている。TDグリセリンが実はグリセリン成分とまったく別物なことに気づいた上海の貿易会社は、グリセリン用アルミ容器に入ったままTDグリセリンを返品しようとしたが、TDグリセリンは成分が安定しておらず、容器のアルミと化学反応を起こし(?)破裂した。この件で、上海の貿易会社は泰興グリセリン工場に賠償請求裁判を起こした。貿易会社は30万の賠償金を勝ち取った。
■ちなみにこの工場、ほんもののグリセリンは作っていない。なのに会社名がグリセリン工場。悪意のあるなしに関わらず、こんな工場の存在がゆるされることじたい、中国のペテン文化を象徴していると思う。グリセリン工場を名乗る会社が、代替グリセリンをつくり、「やすい合成グリセリン」と説明して売って、それをグリセリンだと信じて買う人を、本物のグリセリンがそんな安いわけないじゃないか、ばかだね~と思っているわけだ。それが中国の商売のやり方なのである。いや、ひょっとすると購入者から「食べても大丈夫?」と問い合わせがあったら、「ま、品質は良くないですけど、グリセリンとよく似たもんですから。ちょっとくらいなら大丈夫ですよ」とくらい、平気でウソつくくらいやりかねないだろう。だいたい歯磨き粉に使用OKなんて宣伝したら、口に入れていいと誤解されてもしかたない。
■この工場は、万其剛という人物を代表とする私営企業。泰興市とあたまにあるから郷鎮企業かと思った。このあたりも、まぎらわしい。ネットでは泰興市100強企業なんて、いっているが、従業員20人以下の家内企業に毛の生えた規模だ。南方週末によれば、工場側は「おれらの製品に問題はない、輸出後にどのように使用されるかはおれらのしったこっちゃない。うったえられても、絶対工場には責任はない」と開き直っている。
■こういう中国の土壌に根付いているペテン文化が、国内でも多くの犠牲をだして、なおかつ海をこえて、多くの子供たちをあやめたという事実を、中国政府としてはまず、厳粛に受け止めるべきだろう。で、いそいで、TDグリセリンが市場で、どのように使われているか緊急に調査すべきだ。他の自称グリセリン工場の製品の抜き打ち検査くらいすべきではないか。で疑似グリセリン、TDグリセリンにはグリセリンという商品名は付けさせないようにすべきではないか。でないと、このペテン文化の悪意、怠慢、無責任の連鎖は、ぜったいにまた新たな悲劇を生む、とパンダ大好き親中派の私は老婆心ながら懸念するのである。


by s05694
成田空港にただいま籠城中:…