■米国で、ペットフードが原因で犬や猫の中毒死が発生している。米食品医薬品局(FDA)は原料に使用された中国産の小麦製品に化学物質・メラミンが混入していたとして禁輸を発表しているが、中国側は、これをいいがかりだとしている。中国の食品安全のいいかげんさを身をもってしる私としては、いいがかりをつけられても、そりゃしかたあるまい、と思うものの、狂牛病問題への対応などからかいまみえる米国の食品安全も、必ずしもほめられたものではなかろう。そもそも、米国側は最初は殺鼠剤が原因とかいっていなかったか。それが、実は殺鼠剤ではなくて、メラミンが検出されました…、って米国も、いいかげんな。
■すくなくとも報道ベースでは、中国国内ではメラミン汚染の小麦粉問題は確認されていない。ところでなぜ、小麦にメラミンなのか。専門家の受け売り風に説明しておくと、メラミンはプラスチック製食器などに使う化合物。ただ小麦のタンパク質を測定するとき、窒素の含有量を測定してタンパク質量に換算する方法が使われるため、窒素含有量の多いメラミンを小麦にくわえると、検出される窒素量が多いので、タンパク質含有量が多く見せかけることができる、というカラクリがある。メラミンはタンパク質の4倍の窒素を含有しているため、メラミンを1グラム小麦に加えると、タンパク質が4グラム増えたように測定されるわけだ。確かにせこい中国人生産者が、そういうズルをした可能性は有りそうな気がする。
■たが、たとえメラミンが意図的に加えられていたとしても、さほど毒性の強い物質ではないらしいから、果たしてこれが中毒の原因かどうかはわからない。そもそも中国ではメラミン中毒の例は報告されていない。もっとも人間が食べても平気な微量でも、体重の小さい犬なら中毒になる可能性はある。でも小麦は中国北部においては主食だからね、赤ん坊も子供も食べている。うーん、本当に中国産小麦のせいなのか、この件にかんしてはもう少し、材料というかデータがほしいところだ。
■むしろ、穀物の汚染、安全の問題については、私は小麦より米を問題にすべきだと思う。まず水稲は、水分が多いので、水が汚染されれば、米も汚染される。さらに、中国では、カビの生えた米をきれいに漂白して、新米のふりしてい売る、ニセ米も多い。というわけで、今回は米がテーマ。
■農業大国 中国の没落
毒米、民工米、カドミウム米
最後に米を救うのは日本の技術かもしれない?
■中国で毒米(毒大米)事件が最初に全国的に問題視されるようになったのは2000年10月ではないだろうか。河南省原陽県の農民・王斌が、山東省魚台県から50㌧以上の質のわるい米を買い、それを鉱物油をまぜて漂白、艶を出し、おいしいと人気が高く値段も高い東北米の袋につめて広東省に運んで売った事件が発覚。この米を食べて、気分が悪くなったり下痢やめまいなどを訴える中毒患者が出て問題となった。この王斌は逮捕されたが、こういった毒米が市場に広く出回っていたことがつぎつぎ明るみになり、同年12月には広東省だけで145トンの毒米が押収されている。油のしみた毒米はいまも、ときどき発見され、相当ねぶかい問題である。
■この事件についていえば、中毒は、米にまぜられた鉱物油が原因とされているが、中国では古い米自体が問題である場合も多い。中国各地で備蓄されている古米は管理がわるく、発がん性のあるカビが発生している場合が多いのだ。このカビ毒はアフラトキシン。中国農業大学食品学院の胡小松副院長によると、ダイオキシンの十倍くらいの毒性があり、とくに人体に入ると肝臓への影響が強く、最短で24週間継続して摂取すれば肝癌を引き起こすおそれがある。自然界にある最強の発がん性物質という。
■このカビ毒に汚染されている米は、黄色く変色しているので黄変米などとも呼ばれる。国家としては、この古いカビの生えた米を食用として市場に流通させることをはっきり禁じているが、実際は安い値段、普通の米の3分の1くらいでどうどうと売られている。おもに建設現場の食堂などで使われ、最低貧困層の出稼ぎ農民「民工」が食べているので、「民工米」と呼ばれている。
■このシリーズで参考にしている周勍著「民以何食為天」によれば、民工米は、天津や北京など都市部で一袋46㌔入りがわずか48元だが、もともとが捨てるしかないタダ同然の米。米の小売業者にすれば普通の米一袋を売ったときの純利益は1元あまりだが、民工米は一袋あたり7~8元の利益があるのだという。濡れ手に粟ならぬ濡れ手に米状態。
■「中国質量万里行」雑誌の報道によれば、北京だけでも年間1万㌧以上の民工米が食べられている。北京で食べられている民工米の出所は遼寧省遼東や、黒竜江省五常で、工事現場の食堂だけでなく大学の食堂にも流れているとか。
■五輪開催のおり、北京を訪れる外国人観光客は、意匠をこらしたスタジアムなどの五輪施設や、有名建築家の手になる数々の建築物や豪華ホテル、商業ビル、マンションの林立する国際都市ぶりに感嘆の声をあげるかもしれないが、その街並みは、最低賃金しか払われず、休みも与えられず、一日の最大の楽しみである食事すら発がん性の高い古々々米を食べさせられ続け、いくばくかの金をもって故郷に帰ったときには末期がんでした、というような民工の命の使い捨てによって完成したのだということに思いを馳せてほしい。
■毒米も民工米も、農家や小売り業者が目先の利益を目的におこなっているのだが、最近明るみになったカドミウム米、水銀米、ヒ素米の存在は、量的にはわずかだというものの、中国の稲作農業の未来自体に影響する深刻な問題に思える。
■2006年11月、国家工商行政管理総局が行った市場で流通している米の品質抜き打ち検査によると98・9%が合格したのだが、不合格理由はいずれも基準値以上のカドミウムが含有していたことだった。同局はこの原因を土壌汚染による、としている。
■中国の耕地の10%が農薬や肥料、工業廃水、生活ゴミなどで汚染され、それが農作物の品質にマイナス影響を与えていることは当局も認め、危機感を募らせている。とくに、珠江デルタ流域の耕地は半分以上が、カドミウム、ヒ素、水銀などの重金属に汚染され、そこで育った米、野菜、くだものを抽出検査した結果、程度の違いこそあれ、重金属の含有量が基準値を超えていた。(信息時報2004年6月22日)
■今年4月26日、深センの検疫当局が抽出検査した結果では、依然、少数ながら一部米から基準値以上のカドミウムが検出されている。また、深センの米の一部は水分が基準より多く、まずい上に、カビが生えやすいことが、指摘されている。
■こういった状況をかんがえると、確かに中国は、小麦、米生産量世界一の農業大国だが、その生産レベルはかならずしも高くない。いや、むしろ人口増に対し、穀物生産増がおいついていない。93年から2003年までの10年間で、野菜の生産量は3倍になっているのに、穀物類の生産は1割減少、という。実際、2003年~04年、穀物生産量の不足で、輸出より輸入が増え、04年から中国は穀物輸入国に転落。05,06年は比較的豊作だったようだが、米国との貿易不均衡是正から、大量の穀物を買う必要もあり、日中関係改善のため今年から日本の米輸入を開始。専門家の中には「中国の農業危機」は避けられない、という人もいる。人口13億の中国の農業危機、それは世界の食糧難を意味するのだから、他人ごと、というわけにはいかない。
■ところで、中国の農業危機の主たる原因、土壌汚染、農民の出稼ぎによる農地の荒廃、効率的農業ができない農業・土地政策、そして品種改良など農業技術や生産後の管理技術の後れ、これらの問題のうち、品種改良や、農業技術や管理技術については、日本の協力が期待されているのではないだろうか。実際、日本はすでにそうとう協力している。
■日本の技術指導を経て、大連や黒竜江省でつくられた「魚沼産コシヒカリ」や「あきたこまち」などは、中国の米の中で、ダントツにおいしい。中国で生産されているのに、「魚沼産」と言っていいのか、と文句もいいたくなるが、これはブランド名だからいいのだそうだ。日本でも中国産コシヒカリとかあきたこまちとか、売られているはずだ。中国産コシヒカリを日本産といつわって福井県の業者が売っていた事件が2005年に発覚し、日本人にも中国人みたいなのがいるなあ、と腹立たしくおもったことがあるが、米に関しては口の肥えた日本人がだませるレベルに達したか、と驚いたものである。
■つまり、日本人の開発した米、日本の技術指導があれば、中国でも相当おいしく安全な米ができるわけだ。このほか、精米技術とか貯蔵管理など、日本の技術は群をぬいてすぐれているのではないだろうか。去年の米など、食べ比べると、日本産の米というのは、中国産とくらべると味が劣化していない。というわけで、中国の農業危機、とくに米の分野で救世主となるのは日本かもしれない、と思っている。こういった技術協力は、うまくやらないと日本の農業の不利になるという危惧もあるみたいだが、私自身は、ぜひ中国人に、「お米のひとつぶひとつぶに仏さんがやどっているのだ」という、日本人古来の米に対する信仰というか愛着の深さも含めて教えて、中国の米を安全にしてほしいものだと思う。


by nihonhanihon
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