■中国版ツイッター(人民微博)に胡錦濤総書記が参加しているときいて、私もさっそくログインしてきたよ。でも、正直、宣伝色が強すぎて、いまひとつ、フォローしたい気分にならなかった。
■しかし、中国共産党がインターネットをかくも積極的に利用する時代がこようとは。私はネットとは言論の自由の象徴と思いこんでいたので、その対極に位置すると言論統制の象徴みたいな中国共産党とはなじまないものだと思っていた。党中央政治局の集団学習会で、共産党はもっと積極的にインターネットを利用しろ、と初めて胡総書記から号令がかかったときから五年ほどしかたっていないのに、中国当局がこんな風にネットを使いこなすなんて、驚きだよ。
■GoogleVS中国の決着はまだ、みていないが、これがたとえば、Newsweekの2週間前の特集が指摘するように一種の文明の衝突だとすると、ここでGoogleがひよると、ひょっとすると本当にインターネットの秩序は中国式に移り変わっていくかもしれない。つまり、ネットとは管理(コントロール)しきれるものだということが、常識になる。
■インターネットが発展すれば、言論の自由空間が広がり、いつか、その広がりが中国にも民主化をもたらす、という考えを主張する人は、以前より格段に減り、最近は英コラムニストのマーチン・ジャックス氏のように、誰も中国には勝てない、と断言する人も登場している。
■経済を支配するものが、国際スターダードを支配する。今までは米国式価値観が国際スタンダードだったけれど、これから世界は中国式の新しい秩序に支配され、基軸通貨も人民元になり、世界のネットも中国標準に…てなことが、本当におこると思う?
■インターネットはもともと米国の一極支配だったが、昨年秋、世界のネットのドメイン名やIPアドレスを管理運営する非営利団体ICANNが米政府の管理下から独立、米国はインターネットの管理を手放した、と報道された。(ビジネス情報誌「エルネオス」1月号に特集記事があった)。ICANNは今後、より国際的な運営管理が進むとさいれるが、もしネット秩序が今までの米国一極集中から解放されるとなると、圧倒的に大量のユーザーをかかえる中国の影響というのは、なにがしかの形で出てくるのだろうか、とふと思ったりする。
■ところで、ネットユーザーたちは、自分たちに対する管理とコントロールが確実に強化されていることに気づいているけれど、しかし、いまひとつ抵抗が消極的である、というよりゆる~い、のだ。このゆる~い感じが、なんとも今の中国人の気分を反映している気がして、興味深いので、紹介する。
■額に付けているマークは河蟹~
醤油桶片手にみんなで叫ぼう草泥馬!
■中国のインターネットに親しんでいる人にとっては、いまさらの話なのだが、ネット上で、言論の自由を!と声高に叫んでいるのは、実は天安門世代以上、だいたい40歳以上のネットユーザーに限られている。これは4億人近い中国ネットユーザーのきわめて少数派だ。
■つまり、「ネット人権宣言」とか「08憲章」とか、まじめなネットの闘争をやっている人はほとんどおらず、国内に対する影響力も限定的なのだ。しかし、この程度の内容と影響力の宣言で、劉暁波氏や趙達功氏が捕まってしまったので、08憲章後、国内の民主活動家は今ひとつ、弱腰になってしまった。しかたがないので、最近の「ネット革命宣言」などは、王丹氏ら海外の亡命華人が発表している。
■この「ネット革命宣言」(2月12日)は「08憲章」のような当局との和解路線はむだだから、中国式革命を起こせ、まずはネットのベルリンの壁(金盾工程)を壊そう!と呼びかけている。
■しかしながら、中国のいまどきの若者、一人っ子政策で小皇帝扱いされ、戦争も革命もしらない世代は、そういう革命を起こそう!といわれてもピンとこないし、はっきりいって、王丹ってだれ?海外に逃げたやつらが、なにか?という感じである。
■「おれ、こういう人種、いまいち好きになれんのよね~」「こいつら、すでに落伍者じゃん」…。中国国内の掲示板ではこんな感じである。国内ネットが当局のコントロールが効いているせいもあるが、今の若いネットユーザーに、こういう正面きった闘争の呼び掛けは今ひとつ心に響かないという面もある。まあ、しかも安全な場所からの呼び掛けだし。
■では、彼らは、今の言論統制の厳しさに不満はないのか、というとそういうわけではない。彼らは掲示板やツィッター(中国では禁止されているけれど、その気になったらアクセスできるのだ)で、ネット言論統制批判をそれなりに展開している。ただし、その表現は、命がけで戦うぞ、というような正面きったものではなく、なんとなくハスにものをみた、皮肉とゆるさがまざった表現なのである。
■中国の掲示板をこまめに訳してくれている便利なブログで「大陸浪人のススメ」というのがある。中国のネチズン語をうまく2ちゃんねる用語に置きかえて、本当にうまい訳なので、時間のあるときにでものぞくと、おもしろいよ。
■で、そこからいくつか引用すると、たとえばツイッターで
天朝正腐已經越來越像Matrix裏的那個母體了
(内の国の政府はどんどんマトリックスに出てきたエージェントの母体みたいになっているな。)
みたいな書き込みがある。天朝正腐とは中国当局を示すの隠語。天朝は共産党王朝の意味で、正腐は政府と同じ発音の当て字だ。こういう隠語を使ってのからかい、批判、当世流のネチズンの抵抗なのだ。
■Google問題については、こんな感じの書きこみが多い。
谷歌退出中國,宣告Google,Facebook,Twitter,Youtube四大國際網站全面潰敗,反華勢力們在中國遭遇了巨大的失敗,
再次證明偉大、光榮、正確的中國共産黨戰無不勝的、满塞!
(グーグルが中国からでていく。ここにGoogle,Facebook、Twitter、Youtubeno世界四大人気サイトの全面壊滅を宣言。反中国勢力たちは中国で大いなる失敗に遭う。これらは偉大にして、栄光ある正確な中国共産党の無敵の戦闘力の証明である。マンセー!)
万歳ではなく、朝鮮語のマンセー!(満塞!)とあえて書いているので、揶揄というか一種の抵抗の表現であることがわかるが、本文自体は、五毛(当局の雇われネットユーザーをさす。五毛の書きこみは、当局の意見に臆面もなく賛同したり、恥ずかしいくらいに共産党をほめたたえたりする)の文体をまねている。
■きわめつけは、ちょっと古いけれど、こういったイラスト。

■これは、昨年のグリーンダム事件のときに、ネットユーザーたちが書いたイラスト。グリーンダム(緑●=土貝)とは、2009年7月1日以降の新規販売パソコンすべてに搭載が義務付けられようとした検閲ソフト。エロ(ポルノ)などの有害情報から若者を守るという建前で導入されようとしたが、政治や宗教、思想など中国共産党にとって有害な情報から若者を守ることも目的といわれていた。ただし、この導入計画はユーザー、メーカーからの抵抗だけでなく、ソフト自体に大きな問題があり無期延期となった。
■このグリーンダム問題がネット上でたけなわのとき、若いネチズンはこういう、日本のエロゲームに出てくる妹系キャラを描いて「グリーンダムたん」と名付けて、ゆる~い抵抗の意志を表現していた。
■このイラストをみるとわかるのだが、「グリーンダムたん」の衣装はちょっと紅衛兵風。帽子のマークは赤い星ならぬ、赤い河蟹(和諧と同じ発音の隠語=胡錦濤政権が打ち出しているスローガン・和諧社会を揶揄している)。手に持っているのは醤油桶。
これは去年の流行語「打醤油(醤油を買う)」(ノーコメント、俺は関係ないの意)からきている。中国のテレビニュースで、エジソン・チャンのエロ写真流出問題を報じているとき、通りがかりの広州市民に、テレビがマイクを向けてコメントを求めたときた「俺は醤油買いに来ただけなんだ」とコメントを拒否したことから、「打醤油」はノーコメントを意味する言葉になった。
■髪のチョウチョリボンはおそらく、雅蠛蝶(ヤーミィーディー)。日本のエロビデオで女性が叫ぶ言葉を中国語の音にあてたもの。
で、このエロげー妹キャラのグリーンダムたんは、「エロなんて一番きらい、絶対絶対みせてあげない!」とかわいくセリフを吐いている。ちなみに胸にだいている兎はグリーンダム検閲ソフトのキャラクター。
■ネット上で使われる隠語で有名なのは草泥馬(ツウォウニィマァ=ふぁっくゆあまざーを意味するののしりことば)だが、
これは安徽省の毒粉ミルク事件のときに流行し始めたらしい。粉ミルク会社の責任者が、「責任は(ミルクを出す牛が食べた)草にある」といったことを受け、「ミルクが悪いのは草のせい、草が悪いのは泥のせいだといいだすんだろう!ふぁっくゆあまざ~」と言う感じで、ネットで批判が広がり、「草泥馬~!」というののしり言葉がはやったとか。
■この草泥馬は、いつのまにかアルパカの姿が与えられ、ネット掲示板にアルパカの写真がアップされると、「草泥馬!」という罵倒の表現になっている。ちなみに、成田空港で籠城していた馮正虎さんの背後にもさりげなく、草泥馬(アルパカの人形)が。

■ほかにも、
■中国では、性懲りもなく、またインターネットと携帯電話の実名登録制を導入しようという動きがあり、先日、李毅中工業情報相が検討中だと語ったそうだ。それに対しても、もちろん、草泥馬~と非難の声があがっているが、「実名と仮名とどこでみわけるの?」「中国では、もともと言論の自由なんてネットにもないじゃん」といった、ゆるい非難が多い。
■こういうふうな中国ネットユーザーの抵抗の独特のゆるさは、何に起因するのだろう。天安門世代の知り合いが多い私としては、最近の若者がヘタレにみえてしかたがないのだが。
■実は昨年末、中国のインターネット事情にくわしいITライターの山谷剛史さんと、このテーマについてお話する機会があったのだけれど、彼は「中国のネチズンは、当局が許す範囲の自由を享受できればまあまあいいと思っている」と説明して、「ネットから言論の自由を求める運動が広がる可能性は低い」と見ていた。ようするに、中国の若者は、自分の関心事、楽しみ、金儲け、個人的な欲望を満たすためにネットを使うことで十分満足して、当局と正面きって対立する気はあまりない、ということなのだ。
■その理由は、ひとつには、プロキシソフトなど使えば、金盾工程など中国の「ネット上のベルリンの壁」はその気になれば、超えられる、という余裕。むしろ、本気で抵抗して、政府のより厳しいネット統制をまねくより、抵抗の意志をあまり見せないで、飼いならされている風を装うほうが、結果的に楽だと思っているようだ。
■そもそも、いまの若いネットユーザーが本当に欲しているのはホンモノの民主や自由なのではなく、日本のエロゲーとかハリウッド映画のノーカット版が見られる自由なのだ。ネットを使ってやりたいのは政治改革ではなく、金儲けだったりする。若いユーザーたちが、グリーンダムに本気で抵抗したのは、やはりあれが、ポルノ規制を建前にしていた点が大きいのだろう。
■もうひとつは、今の中国のネットユーザーの若者の中に、なんともいえぬ愛国意識が芽生えてきている、ということだろう。言論統制をうぜぇ~、と思いながら、これまで世界の中心であった米国や、戦後ずっと背中を追うしかなかった日本が、最近は中国を大国、脅威とみなすことに、微妙に誇りをくすぐられる。なんていったって、今の若者は江沢民政権時代の愛国主義教育の洗礼を存分に浴びてきた世代なのだから。
■中国では、リーマンショック後の世界の混乱に自由主義の限界をみて、中国の特色ある社会主義こそ、米国式自由主義の次にやってくる新しい世界秩序、との自信を深めている気配がある。中国こそ、メディアもネットも金融も株も完璧に管理できる持続的発展可能な初の独裁国家となるのだ、と。少なくとも党内ではそういう期待がをうまれ、最近の中国の国際社会における強気な姿勢、人権活動家や民主活動家や少数民族への弾圧強化傾向に反映されているのではないだろうか。
■ものの本で読んだ神話によれば、中国でヒトを作ったのは女媧という女神だそうだ。最初は泥をひとつひとつ手でこねて丁寧にヒトをつくっていた女神も途中で面倒くさくなって、縄を泥に浸してぶんぶん振りまわして、その泥の飛び散ったのを、一粒一粒ヒトにしたと。だから中国人には、君子と呼ばれる優秀な少数のリーダー(丁寧に作られた泥人形)と、どうしようもない大量の愚民(泥の飛び散ったしずく)ができたとか。こういう神話ののこる中国では、愚民は英雄や君子とよばれるリーダーに支配されることの方が安心するのだ、といった考えが根強くある。
■貧富の格差が広がり、その格差に対する民衆の不満が地方暴動という形で頻発、社会の不安定化が民主化運動につながるとか、市場経済と民主集中制政治という矛盾する体制では経済成長は限界に達し、経済破綻が現体制の変化を余儀なくさせるとか、そういう予測を言う人も以前より減った。国民の格差への不満は、民主主義への政治改革を望むよりむしろ、「毛沢東時代はよかった」という懐古趣味的新左派に流れている。
■毛沢東時代の恐怖政治を知らない若い世代の間では「中国が国際社会で軍事的にも経済的にもより強大になることが今の社会の閉そく感を打破する方法」という、なにやら戦前の日本をほうふつとさせる危険思想も見受けられるようになってきた。
■私はもちろん、中国の政治体制が今後劇的に変わる可能性も信じている。しかし、それは五輪開催で中国が国際化し、ネットの発達で情報統制が緩んで、社会の民主化要求が盛り上がるという形で進められる可能性は、低くなったな、と感じている。
■もし、可能性があるとしたら、中国のきわめて伝統的な手法、つまり中央の権力闘争、路線闘争の中に、民主化(どちらかというと民主的な)の流れが生まれる、という形しかないかもしれない。そして権力・路線闘争が激化するかどうかは、過去の歴史からみて国内のインフレ具合が大きく影響する。そうなったとき、どういった権力・路線が4億(そのころは6億かもしれないし、7億かもしれないが)のネット世論を味方につけるか、あるいはうまく誘導するか。
■それは、世界が新たな中国的秩序に支配される時代の幕開けとなるか、それとも私たちがすでになじんでいる民主と自由の秩序が守られるかの分水嶺かもしれないと、想像力をたくましくすれば、いやがおうでも、中国の経済や政治の動きを注意するとともに、中国ネチズンが愚民化していくのか、それともゆる~い言動のうちに、自由への希求や闘志をひめているのかを、みきわめたいと思うのである。


by nihonhanihon
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