■オバマ大統領とダライ・ラマ14世の会談が無事にすみ、中国はめちゃめちゃ怒るのか、と思いきや、実はそうでもない感じだ。いちおう、駐華米国大使を呼びだして厳重注意したのだが、そのかげで香港では米原子力空母ニミッツ乗り組み員が地域の春節イベントに参加して米中友好アピールなんて報道もある。
■一方、米国側も中国側にタンカを切ったようにみえて、微妙に中国に気をつかっている。春節休みの中国庶民が外国ニュースなんて気にしないような時期に会談を設定して、なにより法王様を裏口のゴミ袋の積み上げているようなところから、出入りさせた(島田洋一先生のブログでとりあげられている)。本当のところ、この2大国家の対立は、新婚夫婦のケンカレベルなのか、本気で先鋭化しているのか、みわけにくい。というわけで、最近の中国メディアにみられる論評をもとに、中国の本音を想像(妄想ともいう)してみたい。
■米中は仲がいいのかわるいのか
中国人世論はちょっとオバマ大統領をなめている?
日本はもっとなめられているけど
■目下の米中関係といえば、①昨年のCOP15(コペンハーゲン)の会議での、中国側のオバマ大統領に対するあまりに無礼な態度②米国の台湾に対する武器売却と、そのときの中国の激怒っぷり③Google問題(サイバー攻撃問題)④ 今回のオバマ大統領とダライ・ラマ14世との会談⑤ギフト用リボンとか鶏肉とかの反ダンピング措置合戦みたいな米中通商問題の先鋭化⑥人民元上昇圧力…などから、悪化しているとみられる。中国が米国債の保持を減らしたニュースなども、米中対立の影響みたいな思われ方をしている。
■で、一応、欧米メディアなどの論評をみると、多くは2009年は蜜月だったけど2010年から関係悪化、でも経済相互依存は深いので、貿易戦争とか険悪な関係までにはならないだろう、という無難な線でおちつくのだった。日本ではG2時代の到来で日本はハブにされるのではと心配したり、米中より日米関係の方が深刻という意見の方が多いのではないだろうか。
■ところで、中国人の見方は、ちょっと違う気がする。
■まず、最近、ネット上でオバマ大統領と米国に対する批判、揶揄がすごく増えている。だいたいネットというのは反米反日愛国路線の若者が多く、そういう書きこみも多いのだが、人民ネットなどが、わざわざ「わが国のネチズンはオバマ大統領とダライ・ラマとの会見にこんなに非難の声をあげてますよ~」という記事をつくっている。その前は台湾への武器売却にネチズンがいかに怒りまくっているか、という記事があった。
■この数年の間に、網友譴責(ネチズンは怒っている)…で始まる記事は増える傾向にある。これは、中国が4億人近いネチズンを抱えるようになり、国内外でネット上にあらわれる意見が「ネット世論」として注目されるようになったためで、毛沢東や鄧小平のように党における絶対的な権力を築いていない現在の指導部にとって、このネット世論の支持をえているかどうかが、権力基盤の強化にもつながっている。
■ただし「五毛」とよばれる、ネット工作員(五毛=0・5元で書きこみを請け負い世論をつくる雇われネチズン)の存在も指摘され、ネットにあらわれている世論が、ホンモノの世論かどうかは謎である。ネット世論がさきか、あるいは指導部の思惑がネット世論にあらわれているのかは別にして、ネットの論調はその後の指導部の動きに反映されることが多い。指導部が反映できそうにない論調は被河蟹(削除)されるしね。
■ちなみに私は、とある企業のとある商品に難癖をつける書きこみアルバイトをしていた学生を知っている。ライバル会社がお金をくれるのだ。本当に1行五毛だそうだ。そういう書きこみバイトの元締めみたいな人もいる。時給5、6元のマクドナルドよりは楽なバイト、らしい。
■で、ホンモノかどうかは別として、ネット上にあらわれている対オバマ大統領、対米国に対する国民感情はいまのところすこぶる悪い。ダライ・ラマ会見については「昔奴隷だったやつが農奴の親玉と会見しているよ」といった人種差別的な書きこみも散見する。この世論のなか、胡錦濤政権も親オバマ、親米国の姿勢は打ち出しにくかろう。
■くわえて、中国メディアにあらわれる論評は、「中米関係は谷底の時期にはいるかもしれない」(新華社)「米国に対する幻想をすて、中国は沈着に前進せよ」(環球時報)「オバマとダライ・ラマの会見が盛り上がらなかったとしても、喜ぶに値しない」(法律界)といった、いかにも胡錦濤政権はこれから対米強硬外交にシフトしますよ~そう期待されていますよ~といった報道ぶりだ。
■特に法律界ネットにのったネチズンの論評は、中国の多少の大国意識を反映していて、おもしろい。「オバマ大統領は正式の会見室ではなくて地図室でダライ・ラマと会談し、クリントンよりも中国に気を使っているとBBCなどは報じているけれど、それで中国はよろこんじゃいかん。あいつらは特に中国にたいして過度に刺激して、そのあとちょっと、慰める、そういうやり方をするんだ。中国はちゃんとそういう米国の二枚舌を認識して心の準備をすべし。中国は強大になったが、今後は多くの邪魔や攻撃をうけるだろう。簡単に人を信じちゃいかん…」。
■ネット世論にしろ、メディアの論評にしろ、共通するのは、オバマ大統領の対中外交姿勢のふらつきがあり、それをちょっとバカにしているフシがある。ようするに、最初の大統領の訪中のときに、中国側はちょっとなめたのだと思う。あまりに相手が下手に出たから。なんだよ、リーマンショック後のアメリカってこんなに弱腰なのかよ、と。で、ついつい調子にのってCOP15でさらになめた真似したら(首脳会議で中国代表団の次官級が、オバマ大統領の発言を無礼なやり方で批判したり)、米国側も黙っていられなくて(台湾へ武器売却したりして)本気で激怒してみせたけれど、ダライ・ラマ会談でも、中国への弱腰が透けて見えている。中国人というのは、そういう風に、強気に出てるくせに弱気がすけて見えるどっちつかずの相手をよりバカにする傾向がある。
■胡錦濤政権が今後、反米路線にシフトしていく可能性の要因はまだある。2012年に指導部の世代交代があるが、それまでに胡錦濤総書記は、権力基盤をより強固なものにしておかないと、総書記や国家主席引退後に党中央軍事委員会主席を続けたり、暗然と影響力を発揮したりしにくい。それに、まだ、腹心の李克強さんが総書記&国家主席の座を狙えるチャンスはある。今の李克強さんは、どうみても首相をやりたくなさそうな、なげやりな副首相の仕事ぶりだが、「それは、俺は本当は国家主席をあきらめていないんだぜというサインにみえる」と、評論家の石平さんが以前指摘したことがある。
■李氏巻き返しのためにも、親分としては内政も外交もさすが胡錦濤さん!といわれるような姿勢を打ち出しておかなくてはならない。多少の大国意識をもちだした長老や軍や人民にバカにされない強い姿勢である。「08憲章」を発表した民主活動家、劉暁波氏を逮捕し禁固11年という重い判決を言い渡したのも、強い胡錦濤をアピールするため、と言う人もいる。でなきゃ、20年も前から同じことを主張しつづけてきた劉氏をいまさら、「08憲章」ごときで11年も投獄する理由がない、と。
■外交姿勢だが、胡錦濤氏はこれまで対日重視意外、明確な外交方針をアピールしてこなかった。一時期、ちょっと親欧州にはしったり、そのあと親米ふうにみせたり、どちらかというと相手の外交姿勢にあわせてきただけ。ただ対日重視外交だけは、いわずとしれた前任者、江沢民氏が反日だったから、その反対を意識して打ち出したようだ。だいたい権力者というのは、前任者と反対の路線をアピールしたがるものなのだ(これも石平さんの指摘である)。
■ただし胡錦濤新政権が始まったときは、小泉政権の靖国問題のおかげで、ネット世論が反発、本当は親日でいきたいのに、日本にもなかなか気持ちが通じない時期がけっこう長かった。
■もっとも中国では親~というのはあまり受けない。うけるのは強い中国を体現する姿勢だ。中国政治の世界はなめられたら終わりなのだ。江沢民さんは根っこは欧米大好きで、その外交姿勢は基本的に親欧米だった。そのかわり反日で圧倒的な存在感を打ち出した。もし、前任者の反対をいく、が権力者のセオリーだとしたら、胡錦濤さんはやはり反米姿勢を打ち出さざるを得ない?すくなくとも、今の中国(ネット)世論はそれを期待しているふうだ。
ただし、やはりそれは、内向けのアピールであり、香港へのニミッツ寄港を許可したのは、本当は米国との関係悪化をのぞんでいないよ、という現政権のサイン、かもしれない。胡錦濤さんも実はふらついている?
■おそらく米国内にも、同様の事情(世論に逆らえない事情)があるだろうから、米民主党の根本の価値観の人権や民主や自由にかかわる問題で、あからさまに中国とは妥協できないし、中国ごときになめた態度をとられるのも許せない。本質は相互依存が深まって切っても切れない夫婦のような関係であっても、本音では緊密化を望んでいたとしても、双方の国内事情とメンツがそれを許さない。だからこそ近所に聞こえるような大ゲンカをするようになるかもしれない。
■問題はそういうとき、日本としては、どういう立ち位置で、この二大国家とかかわればいいか。一番いいのは、双方からそれなりに信頼され、双方から自分の味方についてほしいと思われるだけの存在感を持つことだろうけど、今のように安全保障にしろ経済政策にしろ、いまひとつ方針があいまいで決断力のなさが目立つやり方を続けていると、米国からは「あてにならんやつ」と、中国からは「扱いやすいやつ」と双方ともになめられて終わる可能性が一番高い。しかも、それに気付かない可能性もあるのだった。


by nontannontan
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